シャーリー・コリンズ(1935年イングランド生まれ)は、1950年代から活躍してきたフォーク・シンガーです。途中でテンポを変えたりせず、メリハリ も強調しない歌い方は伝承歌手(Jean Ritchie など)から影響を受けたものと思われます。バンジョー伴奏の録音は自分の弾き語りです。共演しているDolly (flute-organ; 1933- ) は姉です。アメリカの歌ないしはヴァージョンが案外と多いです。[ ] の中にチャイルドとローズの分類番号を入れておきました。初めのほうにチャイルド・バラッドを番号順に並べました。* はビデオです(少数です)。ネット上に載っていないものは省きました。なお、どの程度に物語性があればバラッドと認められるのかという問題がありますが、 バラッドとは言い難くても多少とも物語性がある歌とバラッドから派生した歌(たいていは抒情的な歌謡)も含めました。バラッドを定義したり特別扱いしてき たのは採集者や研究者であって、実際の伝承者たちではありません。シャーリー・コリンズについて詳しくは以下をご覧ください。
Shirley Collins - Wikipedia, the free encyclopedia
Shirley Collins (Authorised Shirley Collins website)
Scarborough Fair (1960) [Child 2: The Elfin Knight]
正確に言いますと、バラッドの “The Elfin Knight” から謎々の部分だけが独立した歌で、物語歌ではありません。しかし、チャイルドは謎々のみの “The Cambrick Shirt” [Gammer Gurton’s Garland (1810) 版] もChild 2Gとして含めています。矛盾した言い方になりますが、「チャイルド・バラッド」ではあるけれども「バラッド」ではない、となりましょう。歌詞はシャープ の民謡集(Yorkshire 版かもしれません)からとのことで、Simon & Garfunkel 版とは少し違いがあります(歌詞等は以下参照)。
Scarborough Fair / The Elfin Knight
Scarborough Fair - Wikipedia, the free encyclopedia
The Cruel Mother (1960) [Child 20]
(Another Version)
歌詞等は以下です。The Cruel Mother (lyrics etc.)
高松晃子さんの研究ノートもお読みください。
伝承バラッドの録音文化における展開 ―《酷き母》50異本の言葉と音楽 その1 歌詞について
伝承バラッドの録音文化における展開 ―《酷き母》50異本の言葉と音楽 その2 チューンについて
伝承バラッドの録音文化における展開 ―《酷き母》50異本の言葉と音楽 その3 資料編
The Cherry Tree Carol (1964) [Child 54]
歌詞は以下です。The Cherry Tree Carol.
ジーン・リッチー版(British Traditional Ballads (Child Ballads) in the Southern Mountains, sung by Jean Ritchie, vol. 2, Folkways, 1961)に似ているのでアメリカの版でしょう。特に “On the fifth day of January my birthday shall be” と誕生日(昔のクリスマスで、5, 6, 7日のいずれか;今でもロシア正教では1月7日)を歌いこんだ歌詞はアメリカ版の特徴と考えられています。曲はコリンズの作です。
新 旧約の『聖書』ではなくて外典の「偽マタイ福音書 (The Gospel of Pseudo-Matthew)」 に載っている話です(ただし、イエスは赤ん坊で、木は palm tree です)。バラッドだけではなくイギリスの民衆劇でもこの逸話が演じられました。木はイギリスで cherry tree に変わったようです(その土地の動植物に替えられるのは、イソップ寓話の「蟻と蝉」→「蟻とキリギリス」の例と同じことです)。
The Gospel of Pseudo-Matthew, chapter 20 をご覧ください。
Lady Margaret and Sweet William (1976) [Child 74: Fair Margaret and Sweet William]
歌詞等は以下をご覧ください。Lady Margaret and Sweet William. 最後の “rose-and-briar stanza” は、現世で結ばれなかった男女を題材とした他のバラッド (“Barbara Allen” のヴァージョンなど) にも見られます。
ジーン・リッチーのヴァージョン(以下;マウンテン・ダルシマーの弾き語り)からです(同じ旋律で、歌詞もかなり似ています)。
Sweet William and Lady Margaret - Jean Ritchie
以下のアメリカ南部の版も類似しています。
LADY MARGARET
やまなか・みつよしさんのバラッド・トークもご覧ください。
魅惑の物語世界 - 第1話 肉体を持った亡霊 -
歌詞の中の true lover's knot とは以下です。
True lover's knot - Wikipedia, the free encyclopedia
The Unquiet Grave (1960) [Child 78]
歌詞は以下です。The Unquiet Grave.
歌詞は Child 78A (Sussex version, 1868) と似ています。このバラッドは伝承曲以外にもさまざまな旋律で歌われてきました。コリンズによると、出典はセシル・シャープの民謡集(Baring-Gould & Sharp, English Folk-songs for Schools (“Cold Blows the Wind”) あるいはSharp, One Hundred English Folksongs, 1916 か) だそうですが、シャープ版の変拍子は修正されていて、歌詞の後半は他のヴァージョンから由来します。
The Spermwhale Fishery (1959) [Child 92 (?)]
“Lowlands of Holland” と同じ系統の歌です。旋律はアイルランド版またはアパラチア版と推測されます。歌詞等は以下をご覧ください。
Lowlands of Holland / The Spermwhale Fishery
チャイルドは The English and Scottish Popular Ballads, vol. 5 の "Additions and Corrections" で "Bonny Bee Hom" [Child 92] のヴァリアントとしていますので、ブロンソンは No. 92 (Appendix) に含めていますが、別の歌とみなす向きもあります。以下の記述をご覧ください。
Lowlands of Holland, The (Traditional Ballad Index)
Geordie (1970) - Shirley & Dolly Collins [Child 209]
歌詞・旋律ともにセシル・シャープがアパラチアで採録した版(旋律はBronson, No. 209, tune 30)に近いです。これとは対照的に、ジョーン・バエズはサマセット版(Sharp & Marson, Folk Songs from Somerset, 1910, p. 5)で歌っています。英米の歌手がお互いに大西洋の反対側のヴァージョンを採用しました。歌詞・背景等は以下です。Geordie.
Richie Story (1959) [Child 232]
歌 詞・旋律はEwan MacColl のスコットランド版(歌詞は Gavin Greig 採録版 (1925 出版) から追加)に基づいています(ただし、コリンズ版はイングランド英語)。Richie Story とはチャイルド収録版に登場する人物の姓名(ただし、マザーウェル版 (1826) [Child 232A] の綴りは Ritchie Storie)ですが、コリンズ版では Richard としか歌われていません。歌詞・背景等は以下です。
Richie Story (or The Earl of Weymss)
Richie Story [Child 232] (Traditional Ballad Index)
以下は非チャイルド系のバラッドです(順不同)。
Bonny Labouring Boy* - Shirley Collins, Martin Carthy & the Albion Band (1979) [Laws M14]
画像・音声がよくないです。歌詞は途中までです。歌詞全部は、こちら。
この歌については以下をご覧ください。
Bonny Laboring Boy, The [Laws M14] (Traditional Ballad Index)
The Foggy Dew (1960) [Laws O3]
一 般には "The Foggy, Foggy Dew" (日本では「罪つくり」というタイトル) として知られている歌(ベンジャミン・ブリテンの編曲あり)の別ヴァージョンです。歌詞などについては、以下を参照してください。アイルランドの rebel song である “The Foggy Dew” は別の歌です。The Foggy Dew
Foggy Dew, The (The Bugaboo) [Laws O3] (Traditional Ballad Index)
Pretty Saro (1964)
アメリカの歌で、歌詞はこちらです。Pretty Saro (Traditional Ballad Index)
映画 Songcatcher (2000) にも挿入されました。Iris DeMent singing Pretty Saro from Songcatcher
Dennis O'Reilly (1960)
コリンズは Shirley Sings Irish (1959) というレコードにも吹き込みましたので、アイルランドの歌として扱われています。それほど物語性は強くありません。歌については以下を参照してください。
Dennis O'Reilly (歌詞・背景)
True-Born Irish Man (With My Swag All on My Shoulder; The True-Born Native Man) (Traditional Ballad Index)
Just As the Tide Was Flowing (1960)
Just As the Tide Was a-Flowing (Live 1979) - Shirley & Dolly Collins
このコリンズ版も抒情的な歌謡に変わってきていますが、もとはバラッドでした。伝承版とブロードサイド版があります。以下をご参照ください。
Just As the Tide Was Flowing (lyrics etc.)
Just As the Tide Was Flowing (Traditional Ballad Index)
Mowing the Barley (1960)
いくらかは物語性があるので含めておきます。出典はセシル・シャープのイングランド民謡集とのことです。旋律は Sharp & Marson, Folk Songs from Somerset (1910, pp. 12-13; 歌詞は8番まであります) とほぼ同じです。他に “Lawyer Lee” という題もあります。
Mowing the Barley(歌詞など)
Mowing the Barley (Cold and Raw) (Traditional Ballad Index)
The False Bride
歌詞等については以下をご参照ください。The False Bride / The Week Before Easter
False Bride, The (The Week Before Easter; I Once Loved a Lass) (Traditional Ballad Index)
Death and the Lady (1970)
The John Renbourn Groupも歌いました。
Death and the Lady (歌詞など)
Death and the Lady (Traditional Ballad Index)
Penguin: Tune Add: Death And The Lady
コリンズ版の曲の系譜は不明ですが、William Chappell, Popular Music of the Olden Time, vol. 1 ([1859], pp. 164-68); Claude M. Simpson, The British Broadside Ballad and Its Music (1966, pp. 169-70); Cecil Sharp, One Hundred English Folksongs (1916, pp. 52-53) に掲載の楽譜(それぞれ別曲)とは違います。
Down By the Seaside (1974)
Down By the Seaside(歌詞など)
Down by the Seaside (Traditional Ballad Index)
"EARLIEST DATE: 1956 (recorded from George Maynard)" とあります。Roud folksong index (Roud #1712) でもMaynard の録音しか記録にありません(folktrax の記録でもMaynardの他は 1960年代以降のみ)。このように記録は新しいですが、内容・表現はブロードサイド・バラッドの系統に連なります。
Fair Maid of Islington (1970)
曲は17世紀のダンス曲の "Sellenger's Round" です。なお、タイトルは似ていますが "The Bailiff's Daughter of Islington" [Child 105] はまったく別のバラッドです。
Fair Maid of Islington(歌詞など)
The Fair Maid of Islington (midi あり)
Thomas D’Urfey, Pills to Purge Melancholy ([1707]; vol. 5, 1719, pp. 46-48)にも "The Fair Lass of Islington” として楽譜付き(コリンズ版とは違う曲)で掲載されました。
I Drew My Ship (1958)
イングランド北部で採録された歌です。
I Drew My Ship into the Harbour (歌詞等)
I Will Put My Ship In Order (Traditional Ballad Index)
Bruce & Stokoe, Northumbrian Minstrelsy (1882, p. 93; “I Drew My Ship into a Harbour”) に楽譜付きで載っています(コリンズ版とは歌詞・旋律ともに若干相違あり)。
Poor Old Horse
コリンズ版は “fragment” だそうです。Traditional Ballad Index に含まれているので入れましたが、バラッドではありません。
Poor Old Horse(歌詞など)
Poor Old Horse (III) (Traditional Ballad Index)
The Irish Boy (1960) [Laws P26]
これもバラッドの “fragment” です。
The Irish Boy を参照。
コリンズとローマックスはこの歌の印刷版が見つからなかったと言いますが、Hyland's Mammoth Hibernian Songster (Chicago, 1901, pp. 97-98) に8連から成る "Bonny Irish Boy" が掲載されています(冒頭の2行などが同じ歌詞ですので、同系統でしょう)。女は男の後を追ってアメリカ中を探し回り、とうとう見つけて結ばれる、という 話です。以下では、男が他の女と結婚したことを知って、失恋の痛手で死亡するとなっています。コリンズ版のたった2連の歌のほうが、たとえ物語は「不完 全」でも、出来がよいと思います。
Bonny Young Irish Boy, The [Laws P26] (Traditional Ballad Index)
The Little Gypsy Girl (1971) [Laws O4]
Gipsy's Wedding Day (1979) - Shirley & Dolly Collins
タイトルが違いますが、同じ歌です。
The Gipsy's Wedding Day / The Little Gypsy Girl(歌詞など)
Gypsy Maid, The (The Gypsy's Wedding Day) [Laws O4] (Traditional Ballad Index)
Squire and the Gipsy, The (Traditional Ballad Index) [類似のテーマ]
My Bonny Miner Lad (1959)
Industrial ballad の一つだそうです。
My Bonny Miner Lad (歌詞等)
Roud #877 の歌だと思われますが、Roud Folksong Index に “My Bonny Miner Lad” というタイトルの歌はありません。また、Six Jolly Miners (Traditional Ballad Index) の Description を見る限りでも関連がなさそうです。しかし、以下で紹介されているカナダとアメリカのヴァージョン("We're All Jolly Wee Miner Men"; "I Love My Miner Lad"; "Six Jolly Wee Miners")には類似のスタンザが含まれていますので、つながりがあると思われます。
John C. O'Donnell, "Labour's Cultural Impact on the Community" (Canadian Journal for Traditional Music, 1986)
Died For Love (1960)
バラッドというよりはラブ・ソングですが、入れておきます。歌詞等は以下をご覧ください。コリンズ版の歌詞は Frank Kidson, Traditional Tunes (1891, pp. 44-45; “My True Love Once He Courted Me”; 7-stanza version; 別曲) からです(ただし、歌詞に “died for love” の文言がありません)。
Died for Love
以下との関連は薄いようです。
Died for Love (I) (Traditional Ballad Index)
Bobby Shaftoe (1960)
これは有名なマザー・グースの歌です。少しは物語性がありそうに思えますので含めておきます。
Bobby Shaftoe(歌詞など)
Bobby Shaftoe (Traditional Ballad Index)
Bad Girl (1964) [Laws Q26]
これも同じく "Unfortunate Rake" 系の歌で、“Bad Girl's Lament” という題もあります。アメリカ版だと思います。歌詞は以下です(ただし、タイトルとスタンザの順序が違っています)。
DigiTrad: ONE MORNING IN MAY
以下とも関連します(同じスタンザが含まれています)。
Streets of Laredo, The [Laws B1]
One Night As I Lay On My Bed (1974)
Steeleye Span, June Tabor なども歌っています。ロバート・バーンズが書き換えた "As I Lay on My Bed on a Night" も同じ系統の歌と考えられます。" Go From My Window" (上記参照) とも関連があるようです。
One Night As I Lay In My Bed(歌詞など)
One Night As I Lay On My Bed (Traditional Ballad Index)
Nottamun town
歌詞等については以下を参照してください。Nottamun town
Fairport Convention や Bert Jansch も歌っています。
(My) Dearest Dear (1964)
こ れもバラッドというよりはソングです。"The Time Draws Near", "As Time Draws Near", "Time Has Come My Dearest Dear", “The Blackest Crow” などのタイトルもあります。記録については以下を参照してください。
My Dearest Dear (Traditional Ballad Index)
コリンズの歌はおそらくアパラチア版でしょう。Cecil Sharp, English Folk Songs from the Southern Appalachians, vol. 2, 1933, p. 13; no. 77: "My Dearest Dear") と歌詞・旋律がとてもよく似ています。同じヴァージョンではありませんが歌詞が以下にあります。
My Dearest Dear
Reynardine
Pentangle, Fairport Conventionなども歌っていますので、歌詞等についてはそれぞれのページのリンク先をご覧ください。
The Queen Of May (1959)
The Queen of May(歌詞など)
Queen of the May (Traditional Ballad Index)
All Things Are Quite Silent (1978) - Shirley & Dolly Collins
All Things Are Quite Silent(歌詞など)
All Things Are Quite Silent (Traditional Ballad Index)