ペンタングルについて 桝井幹夫
<平成10[1998]年3月停年退職後からキプリングまで>

「私とバラッド (3)」は、京都のライブハウス「拾得(じっとく)」で聴いたジーン・リッチーで終わった。実は「拾得(じっとく)」ではもう一つ、ペンタングルのギタリスト、ジョン・レンボーンのライブがあった。1978年頃で、「私とバラッド (3)」のリッチーより先のようだった。このころ、筆者は京都の錦(にしき)小路近くの喫茶店「名(な)無(な)し」でチャイルド・バラッドのレコードをかけて、解説するDJみたいなことを定期的にやっていた。そのとき、店主の藤井さんから、ペンタングルのジョン・レンボーンがやって来ることを聞いた。ギターの名手で、彼にかかるとどんなおんぼろのギターでも見事な音を紡ぎだすそうだ。そのときの録音が残っている。 https://tower.jp/item/4734834/Live-In-Kyoto-1978
日本バラッド協会の会員、辻野隆雄さんもこのころからのお付き合いでなかっただろうか。また同じく会員の小路滋さんも、バラッド入門のきっかけはペンタングルやフェアポート・コンベンションの音楽と聞いている。フォークロック、あるいはフォークジャズ(筆者の造語)という、最も新しいトラッドのジャンルと思う。当時最もナウイー、あるいはイマイーとされていた。日本だけでなく、本場の欧米でも若者に受けたようで、ジーニー・ロバートソンのような古いトラディショナル・シンガーやマッコールやロイドといった「気色悪い」声と唱法の、いささか学究肌のリバイバリストはじじくさい、あるいは、ばばくさいと思う若い人々の心を打ち、ジョーン・バエズなんて、あんなプロテスト・ソングはどことなくうさん臭い、という人たちが惹かれていったようだ。ペンタングルやフェアポート・コンベンションについては、日本バラッド協会の「音と映像からのバラッド」のシリーズに詳しい。特に故櫻井雅人氏の「ペンタングルとバッラド」は頗る付きの研究である。引用される音源がハンパでないのである。ただただ頭が下がる徹底ぶりである。
 今日は序曲として、ペンタングルの「残酷な姉」をとりあげてみよう。チャイルドでは#10(“The Twa Sisters”)である。またまた日本の怪談、伝説、民話(?)とひっかけるおまけ付きである。https://j-ballad.com/2014-10-13-07-14-34/111-pentangle.html
歌詞は次のURLから読めるhttps://genius.com/Pentangle-cruel-sister-lyrics

あらすじ:姉が妹を川に突き落とし殺めた。二人の吟遊詩人が「肋骨(ほね)で竪琴を作り」、「髪で弦を張った」。父親の館へ持っていくと、竪琴はひとりでに鳴った。そしてついに姉の悪事が露見した。(『全訳 チャイルド・バラッド 第1巻』バラッド研究会編訳、音羽書房鶴見書店、2005年、p.14 「二人の姉妹」参照)

筆者の住んでいる家から北に高野川に沿って行くとやがて八瀬を経由して大原の里に至る。さらに進むと、途中という名の村落を通り、道は花折峠に来る。三橋節子という画家が「花折峠」という絵を描いた。ある近江の昔話に基づく絵である。筆者は三橋の絵を知る以前、あのあたりをよく歩いたので、何かで読んだのだろうと思う。二人の娘(姉妹?)が花売りで生計を立てていた。一人(姉?)は意地悪、もう一人(妹?)は優しい性格だった。嫉妬した方が、もう一方を谷川に突き落とした。これでよしと家(里)に帰ると殺したはずの娘がかいがいしく夕食の支度をしているではないか。殺しの現場近くの草花がことごとく折れていた、まるで死んだ妹の身代わりのように。(妹の遺体が沈んでいる方向を指すように折れ曲がっていた)。[( )の中は筆者の記憶。] このあたりの記述は、梅原猛の『湖の伝説』(梅原猛著作集第16巻、集英社、1982年)に詳しい。しかし、実はこれは創作民話だったというオチがついているが、筆者は伝承民話のままでよかったと思う。(『滋賀新聞 ウィークリー』2005年9月10日号参照)http://www.shiga-np.co.jp/2005/050910.html
もう一つ、創作民話についての真相は次のURLを参照されたい。http://www5a.biglobe.ne.jp/~takaishi/nt_03.htm

三橋節子 花折峠( 1974年10月)  

三橋節子

梅原 猛は、三橋節子の涅槃図ととらえている。朱色の着物は、もう普通の人間の着るものでなく、三橋節子の「鬼子母」(1972年9月)のそれである。頭を右にしている構図、ミレー( John Everett Milais 1829-96 )のオフエリア(テート美術館)を想起せしめる。なおこのミレーの絵をモチーフにした短編小説 ('Death by Water', The Sunlight on the Garden, Arcadia Books, London 2006)を恩師フランシス・キングが書いている。