日本バラッド協会第6回(2014)会合

日程:2014年3月22日(土)  
場所:大阪大学豊中キャンパス 文学研究科 本館2F大会議室  http://www.osaka-u.ac.jp/ja/access/ 
予定時間:会合 13:00-17:00 懇親会:17:10-19:00 

1. プログラム>  司会・進行 喜多野裕子 

13:00 開催校挨拶/事務局報告 
13:15 講演 吉賀憲夫「ウェールズ詩とは何か? ー その伝統と現状」 
14:15 ティータイム(ミニ交流会) 
14:45 対談 廣瀬絵美 石嶺麻紀「“Jack Orion”にみるA. L. ロイドのバラッド観~第二次フォークリヴァイヴァルの行方~」 
15:45 休憩 
16:00 ストーリーテリング 井上妙子「勝ったのはどちら?負けたのはどちら?」 演目:“Scarborough Fair” / “Lady Isabel and the Elf-Kight” / “Edward” / “Babylon” / “The Wraggle Taggle Gipsies, O!” / “The Farmer's Curst Wife”  
17:00 閉会 
17:10 懇親会(場所は会合場所近く 別途連絡) 

* 出席ご予定の方のみ、2月末までにお知らせ下さい。(懇親会に欠席の場合は、その旨お書き添え下さい。) なお、会員以外の方々にもご自由に広くご案内ください。

2. 対談要旨
  “Jack Orion”にみるA・ L・ Lloydのバラッド観 〜第二次フォークリヴァイヴァルの行方〜        報告者 廣瀬絵美  石嶺麻紀

導入  
フォークシンガーで学者のAlbert Lancaster Lloyd(1908-1982)は、1950年代から60年代にロンドンを中心におこった、第二次フォークリヴァイヴァル運動という文化運動の中心人物であった。この運動は、LPレコード、ラジオ番組、フォーククラブといった場所を通して、バラッドの「音楽性」を再び取り戻そうとする試みであった。本報告会では、1966年に発表されたLloydのLPアルバムFirst Personに収録されている歌曲 “Jack Orion”を主に取り上げる。これは才能のあるフィドル奏者、“Jack Orion”が貴婦人と密会の約束をするが、従者が彼になりすまし貴婦人を寝取る、それを知ったJack Orionが従者Tomを縛り首にするという悲劇的かつ暴力的な物語だ。この歌は、チャイルドのバラッド集の67番Glasgerionを元に、Lloydが改作したものであるが、チャイルドのヴァージョンでは主人公はフィドル奏者ではなくハープ奏者なのである。 

1 A・L・Lloydのポリティカルな立ち位置  
Working Classで共産党員 →バラッドにLloydのポリティカルな価値観がどう反映されているか考える。 

2 スコットランド方言や古い英語を現代の英語に直す  
Glasgerionは、実在した9世紀のハープ奏者であり、スコットランドやイングランドにバラッドとして残っているが、ロイドは、その歌詞を現代英語に直している。それは、当時のロイドにとって、表現者としての「やり易さ」と聴き手にとっての「わかりやすさ」を追求した結果だと言えるのではないだろうか。 

3 メロディーと楽器を変える  
・GlasgerionはBronsonの楽譜集に収録されたメロディーが一つはあったが、それ以外にメロディをたどることはできない。ロイドは、このバラッドの物語に惹かれ復活を目指すのだが、その際、Bronsonの楽譜集の中のメロディは採用しなかった。「民衆受けする」ことを目指し、当時一般によく知られていたNeil Grant作曲のDonald Where’s Your Troosers? (1960)のメロディーを用い、Glasgerionに新たな命を与えたのである。 
・ロマンティックでノスタルジックなイメージを持つハープに代わって、「ストリート的」要素と「現在性」という要素を盛り込むために民衆により身近な楽器であったフィドルを採用した。 

4 authenticityをめぐる議論  学者とパフォーマーのauthenticityをめぐる意見の対立を確認しつつ、ロイドが自身のworking classという文化的なルーツや経験をもって、authenticityを新たに問い直したということを論じる。例えばGlasgerionのロイドヴァージョンには、willow treeという言葉がつけ加えられている。その、willow treeという言葉には、「Jack Orionと貴婦人との破れた恋」だけではなく、「Jack Orionとその従者Tomの信頼関係の崩壊」という二重の解釈をすることができる。ここでロイドがスポットライトを当てているのは、Jack Orionではなく、むしろ従者のTomなのである。彼は、最終的には殺されてしまうのだが、貴婦人を寝取るという主人への裏切り行為を通して、貴族階級に対する労働者階級の勝利を表していると言えよう。ロイドは、これをwillow treeというシンボルを通して暗示したのではないだろうか。

5 ロイド後のGlasgerion  その後のミュージシャンたちがどのようにこの曲を表現していったのか、その音源を幾つか紹介しながら、ロイドがGlasgerionを通してバラッドに吹き込んだ命についてまとめる。