日本バラッド協会第11回(2019)会合報告

日時:2019年3月23日(土)13:00-17:00
場所:立命館大学いばらきキャンパス 立命館いばらきフューチャープラザB棟1階 イベントホール1

 第11回会合は、立命館大学ヴァナキューラー研究会(代表 ウェルズ恵子氏)との共催で開催。参加者数39名。
会合第一部(講演・研究発表)は国外のバラッドおよび非文字言語に関するもの、第二部(レクチャー実演・トーク)は国内の伝承物語歌と伝承物語に関するもの、第三部ライブでは、再び国外のバラッドに戻り、アメリカンフォーク&トラッドで使われる楽器の紹介と6曲のライブ、という内容となった。

 バラッドとは、国外・国内の物語、物語詩、物語歌、伝承、口承、非文字言語など、多様性を持って解釈されるという会合の開催理念が定着しつつあることを実感した第11回だった。プログラムが充実していたため、出演者も聴衆もそれぞれが十分に楽しむというバラッドの精神が伝わる雰囲気が醸し出された。会合後の懇親会には31名が参加して、多様性の発見と展開を語って親睦を深めることができた。 (中島久代)


<講演>
スロベニアのバラッド、伝統と現代文化 —文学・音楽の変遷とナショナル・アイデンティティ—  
           マリエッカ・ゴレジ・カウチチ(スロベニア人文科学研究所、民族音楽学センター)

カウチチ

中央ヨーロッパに位置し、イタリア、オーストリア、ハンガリー、クロアチアと国境を接するスロベニアが独立したのは1991年。国としての歴史は浅いものの、スロベニア人という民族の歴史は、物語歌であるバラッドに刻まれており、スロベニア人にとってバラッドはまさに民族の歴史を伝える遺産である。この講演では、スロベニアのことを知らない人にもわかりやすいよう、まずは国や民族、そしてその歴史についてスライドで紹介する。その後、スロベニアのバラッド蒐集の歴史、代表的なバラッドについて、各バラッドにまつわる逸話や伝説、他の国や文化のバラッドとの相違点などについて、音楽の視聴を交えながら話をしたあと、現代においてバラッドがどのような変容をし、文化的にどのように反映されているかについて見ていきたい。<講演要旨より>


 

<研究発表>
音のことばから書きことばへ — マイルス・デイヴィスのKind of Blue批評研究  中谷可惟

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 歌詞のない器楽音楽作品について文章表現する時、批評家は比喩表現を駆使したり、作品にまつわる逸話を披露したり、作品の歴史的意義の明文化を行うなど、様々な戦略を編み出す。マイルス・デイヴィスの1959年のアルバムKind of Blueは、現代では「最も名の通って優れたジャズの名盤のひとつ」として語られるが、発表当初からこのように評価されていたわけではない。このような現代的評価は、「傑作」という定評がついてカノン(古典)の地位に行き着くまで、半世紀にわたって批評が繰り返され、様々な角度からの称賛言説が付与されてきた結果である。アメリカでは1980年代までに「ジャズの歴史叙述」という文筆活動がこのアルバムを古典として定着させたが、それは抽象的で文章化し難い音楽そのものの美的価値を語るのではなく、ジャズ史上におけるアルバムの歴史的価値を冷静に定義するという批評であった。批評家らは、もともと言語的意味に乏しいこのような器楽音楽の「すぐれたところ・まずいところ」を文章で書き著わすという、いわば楽音の言語を文字に「翻訳する」という課題に取り組む中で、文章表現の可能性を拡げ、アルバム自体の評価の定着に寄与してきたのである。 

 


<レクチャー&実演> 
東北「語りもの」民謡と津軽三味線―〈呪術〉としての言葉遊びが紡ぐ物語世界  山田 良
会合パフォーマンス−動画集のページをご覧ください。)

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 日本民謡の宝庫であると共に、民間信仰と関わりの深い口承の芸能・風習を生み出したエリアでもある東北地方の、「語りもの」唄について、特に「言葉遊び」に注目、掛け言葉や駄洒落等によって、ストーリーが時空の制限や語り手/登場人物の垣根を超えて自由に「浮遊・溶解」し始める様子を、実演を交えて紹介した。このような独特の「語りもの」唄発生の背景として、「イタコの口寄せ」をはじめとする言葉の呪術や、様々な門付芸の影響を仮説として提示。さらに、東北民謡に不可欠な伴奏楽器としての三味線(津軽三味線)の役割にも言及し、人々の生活を「言葉と音の呪術」で寿ぐ役割を担ったのが漂泊の盲目芸能者であったことを指摘した。発表者としては、自身の歌唱・演奏技術が甚だ拙く、聴衆諸氏に、発表内容がどこまで的確に伝わったか心許なく、かつ心苦しく思うところである。発表後には多くの方々から、有意義なコメントや質問、さらなる研究に繋がるヒントをいただきました、心から御礼申し上げます。ありがとうございました。

 

 

 


<トーク「わたしとバラッド」要旨>
ishii昔話を語るーお話を聞くのは楽しいー  石井啓子
会合パフォーマンス−動画集のページをご覧ください。)

バラッドと同様に口承伝承されてきた昔話を語り聞いて頂きました。
「良弁杉」―『子どもと家庭のための奈良の民話一』
      編者 青木智史・竹原威滋 奈良の民話を語りつぐ会
「十三鐘の石子詰め」―『子どもと家庭のための奈良の民話二』
「井戸の怖い仁王さん」―同名絵本 夢絵本製作委員会 

本を目で読むのではなく耳からお話を聞くことの楽しさを感じて頂けたら幸いです。

 

 


<ライブプログラム>
「古きよきアメリカンフォーク&トラッド」  
やぎたこ(柳澤昌英 & 辻井貴子)
会合パフォーマンス−動画集のページをご覧ください。)

yagitako

 全国を回る旅の歌うたい『やなぎ』と神奈川在住『辻井貴子』によるアコースティック・デュオ。18世紀より受け継がれ、現在に至る古きよきアメリカンフォーク&トラッドが主なレパートリーです。それぞれの歌の時代背景や内容の説明をしながら、いろいろな楽器(フィドル、バンジョー、マウンテンダルシマー、オートハープ等)で演奏する、という活動を全国で行っています。
 アメリカン・ミュージックのルーツでもあるバラッドにも大変興味があり勉強中です。アパラチア山脈に残っていた歌や、そこで生まれた楽器の紹介なども交え、歌詞だけではなく音色やメロディという切り口でバラッドをライブの際に紹介できたら、と考えています。
 当時の再現というわけではない、私たちなりのアレンジではありますが、チャイルドバラッド集に収録されている曲も交えて、会員の皆様に聴いて頂く機会が得られて光栄でした。他の講演を聞いて改めて、異なる土地に異なるバラッドが存在し、かつ互いに相通ずるものがあることを実感し、大変興味深く感じました。ぜひまた参加したいと思っています。ありがとうございました。

 ◆演奏曲目
The Devil’s Nine Questions(Child No.1)
The Wind and Rain(Two Sisters)(Child No.10)
Barbara Allen(Child No.84)
The Cuckoo Bird
I Wish My Baby was Born
The Wayfaring Stranger