[「英国バラッド詩アーカイブ」(http://literaryballadarchive.com/)のRudyard Kiplingのバラッド詩翻訳を担当されている桝井幹生氏からの特別寄稿]

現時点でよく参考にしている書物などを列挙してみよう。長編小説や短編小説の解説本が多いのに反し、詩に関するものが少ない。だから困っている。
(1)    書物ではないが、The Kipling Societyのインターネット情報が便利である。 ただしキプリングの全ての詩の情報が得られるとはかぎらない。また読者に教えてくれとのSOSもあ る。The Kipling Societyで検索し、同homepageをクリックする。
(2)    橋本槇矩・桑野佳明編著『キプリング 大英帝国の肖像』彩流社 2005
巻末のキプリング文献書誌が便利である。
(3)    橋本槇矩・高橋和久編著『ラドヤード・キプリング 作品と批評』松柏社 2003
マシュー・M・ハンリー「ラドヤード・キプリングの詩と韻文」
(2)、(3)で唯一のキプリング詩論。
(4)Ralph Anthony Durand A Handbook to the Poetry of Rudyard Kipling. London, Hodder Stoughton 1914
全詩の注釈ではない。また間違ってもリプリント版だけは買わないように。筆者の求めたものは、乱丁にも等しいでたらめのコピーであった。
(5)W. Arthur Young & John H. McGivering  A Kipling Dictionary Macmillan 1967
詩の解釈には大して役に立たない。看板に偽りありの本。
(6)中村為治訳『キプリング詩集』梓書房 昭和4
対訳注釈本。 収録詩はただの20編のみ。 注釈は(4)に負う。
(7)中村為治選訳『キップリング詩集』岩波書店 1936 1988記念復刊
(6)より収録数は多い。

またキプリングは小説のなかに詩をちりばめることが多いから、つぎの注釈つきテキストとか日本で出た注釈本とか、訳本が参考になるだろう。
(8)Rudyard Kipling Puck of Pook’s Hill and Rewards and Fairies  Oxford  1993
(9)Rudyard Kipling  Kim    Penguin 1989
(10)Rudyard Kipling  Kim    岩崎民平注釈 研究社 大正12
(11)斉藤兆史訳 ラドヤード・キプリング 『少年キム』 筑摩書房 2010
(12)金原瑞人・三辺律子訳 キプリング 『プークが丘のパック』光文社 2007
(8)~(12)は、あまりバラッド詩とは関係がないかもしれない。

最後にインドなどアジア関係の詩にはつぎの辞書がある。
(13)The Concise Hobson-Jobson An Anglo-Indian Dictionary  Wordsworth Editions 1996  
筆者のはコンサイス版だから、どうせ買うのなら1886年のオリジナル版のほうがよさそうである。

以上わずかな本で苦労していることがお分かりと思う。「もう誰も読まなくなったキプリングだから、散文作品の研究書も少なく、ましてや必ず2~3箇所は意味不明な難所を用意してくれるキプリングの詩の解説書など皆無である。OEDも当たってみるにはみるが、ヒットすることは稀である。(終わり)