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連載エッセイ “We shall overcome” (2)
アイルランド民謡「ロンドンデリーエア」に寄せて 鎌田明子 2020-08-14
コロナの感染拡大を避けるため仕事に行っているすべての大学で遠隔授業となりました。もともとPC操作などがあまり得意でないこともあり、半泣き状態で授業資料を作りました。システムエンジニアの夫をこれほど頼もしく思ったことはありません。
遠隔授業に感謝していることは2点。一つは満員電車に乗らずに済むこと、もう一つは昼間に家にいられることです。ちょっと時間が空くと趣味のヴァイオリンを弾くなど、帰宅が遅くなる普段の生活では考えられないような時間の使い方をさせてもらっています。
ヴァイオリンを弾いている間はいろいろな不安やイライラをすべて頭から追い出すことが出来ます。最近は「ロンドンデリーエア」を集中して練習しました。
曲を弾いていると、風景や、詩や小説の世界、絵画、映像が頭に浮かぶことがあります。頭に浮かぶ景色や小説の登場人物の表情などを思いながら弾くと不思議と曲がまとまるように感じます。ロンドンデリーエアを弾く中でふと思い浮かんだのは、バラッド「ベッシー・ベルとメアリ・グレイ」でうたわれた川辺のお墓の風景でした。春に『チャイルド・バラッド』の電子版作成のために作品を読み直したことに加えて、ペストが猛威を振るう中の出来事を描いた作品が、コロナ禍の今と重なって頭に残っていたのだろうと思います。町から離れて暮らしていながら、訪ねてきた恋人からペストに感染し、命を落とした二人の女性を歌ったバラッドです。翻訳した時には、せっかく安全な場所に避難までしたのに、恋人と会えないことくらい我慢できなかったのかなどと思っておりましたが、緊急事態宣言が出され、外出自粛が求められる今では、Lineもzoomもない当時、愛する人と会えないことは耐え難かったろうとか、久しぶりに恋人と会えてどんなにうれしかったろうとか、当時とは全く違う思いで作品を読みました。
クライスラー編曲の「ロンドンデリーエア」は全く同じメロディが3つの音域で繰り返されます。それぞれの音域にあった雰囲気をつかむのに苦労しました。追憶―喜び―祈り。「ベッシー・ベルとメアリ・グレイ」の助けを借りてつかんだのはそんなイメージでした。
ギトリスの演奏は独特ですが聞き出すと癖になります。
ベッシー・ベルとメアリ・グレイ (Child 201)
ベッシー・ベルとメアリ・グレイ
二人はきれいな娘でした
小川のそばの丘の上に 小さなお家をたてました
いぐさで屋根を葺きました
緑のいぐさで葺きました
ヒースで屋根を葺きました
けれども町にペストが広がって
二人は一緒に死にました
メスバンの教会墓地に
高貴な一族と一緒に眠りたいと願いました
けれども埋められたのは ストロナークの川のそば
陽のよく当たる場所でした
ベッシー・ベルとメアリ・グレイ
二人はきれいな娘でした
小川のそばの丘の上に 小さなお家を建てました
いぐさで屋根を葺きました
https://www.youtube.com/watch?v=wrtPyC-N4Ow