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アバディーン・レポート (1)

 こんにちは。立命館大学の山﨑遼です。これまで博士後期課程でスコティッシュ・トラベラーの口頭伝承を研究して参りましたが、2016年9月より休学してアバディーン大学のエルフィンストーン研究所に留学しています。こちらでは二つ目の修士号(MLitt in Ethnology and Folklore)を取得する予定です。この一年、不定期ではありますが何度かエッセイを書かせていただくこととなりました。お付き合いいただければ幸いです。
1. 街
 アバディーンはグラスゴー、エディンバラに次いでスコットランド第三の都市と言われており、人口は23万人ほどです。これは私の出身地よりも少し大きい程度であり、都会すぎず田舎すぎない街のサイズがとても似ています。過去二度訪れたことのある街ですが、実際に住んでみるとその住み心地と治安の良さに魅了されています。
2. 研究所
 所属するエルフィンストーン研究所は大学設立500周年を記念して1995年に創設されました。ここではスタッフ、教員、院生が非常に密なコミュニケーションを取っており、おかげで安心して勉学に全力を注ぐことができています。当然ながら本を読んでばかりの毎日ですが、研究所の机を囲んで教員・院生が共に昼食を食べたり談笑したりとコミュニケーション不足を感じることはありません。
 研究所の一角にはBuchan Libraryという図書室があり、ここでほとんどの授業が行われます。フォークロリストであったデイビッド・バッハン(David Buchan)教授は研究所の初代所長に任命されるも着任前に亡くなり、その後彼の妻が彼の蔵書を研究所に寄贈してこの図書室ができました(フォークロリストDiane Goldsteinによると、ここの本を開くとバッハン教授のパイプたばこの香りがまだするそうです)。
 研究所の活動目的は学界と地域の橋渡しをすることであり、‘Studying Culture in Context’というスローガンからも分かる通り、地域と強く結びついた研究活動が行われています。Public Lecture SeriesやEthnographic Film Seriesといった、一般の方々が参加できる催しも頻繁に開催されています。近年日本では人文学への迫害(?)が始まりつつありますが、私はここに未来の大学の一つのあり方を見たような気がします。
3. 授業
 授業は週二日あり、どちらも朝の10時から夕方の6時までです。一つは「フォークロア研究の歴史と主要ジャンル」であり、この分野の研究史を俯瞰すると共に、主な研究対象の種類について教わっています。もう一つは「思想背景と方法論」で、インタビューにおける機器の使い方やアーカイブ作成の基本など、フォークロア研究の基礎となる方法を実践を通して教わっています。これまで文学研究の方法しか知らなかった私にとっては新たな分野を一から学んでいるようなものであり、その大きな違いに戸惑いつつも大いに刺激を受けています。毎週20~30冊の文献を読んでくることが求められるため、授業以外の時間は全て課題の消化に充てています。非常に体系的なプログラムが組まれており、半年から一年の間に研究史、理論、研究方法がしっかりと身につくよう工夫されています。
 9月には授業の一環として行われた一週間のフィールドスクールに参加しました。車で北部ローランドからハイランド地方(ハントリー城、ネス湖、エッグ島など)を巡り、地元の人々に街を案内してもらったり、初めて本格的な機材を用いたインタビューを行ったりしました。初のフィールド経験は非常に実践的で、フィールドワーク中心となる修士論文執筆の良い練習となりました。
 10月には、フォークロアのトピックを一つ選んで初の単独フィールドワークを行うEthnographic Field Reportという課題が出されました。私は北東部の郷土料理カレン・スキンク(Cullen Skink。燻製ハドックのスープ)について書こうと考え、バスで3時間半かけて発祥の地カレンへ向かいました。初の単独フィールドワークは困難の連続でしたが、町の人々に直接話を聞くことでカレン・スキンクについてのナラティブを収集することができました(食にまつわるこのような研究は、フォークロア研究ではfoodwaysというカテゴリに分類されます)。
 11月は日々のリーディングに加え、毎週テストや課題の締め切りがある非常に忙しい月でした。印象的だったのは、Practical Examと呼ばれるインタビューとデータ処理のテストです。本格的なインタビューには専用の機材を用いるため、相応の技術を身につけることが求められます。また、録音した素材はアーカイブに入れ、インデックスを作らねばなりません。このテストでは、実際のインタビューを通してこれらを全て単独でこなせるかどうかを審査されました。Practical Examは無事終了し、現在はその他の課題も全て提出し終えて、あとは来月のテスト二つに備えるのみです。
4. 課外活動
 授業に加えて、課外活動としてPolish-Scottish Song and Story Groupという活動にも参加しています。アバディーンはポーランドからの移民が多いため、お互いの伝承歌や物語を教え合うことで理解を深めることが目的です。移民のナラティブを研究している研究所の教員と、地元のシンガー・ストーリーテラーが主催しています。
 また、Aberdeen Gaelic Clubのスコットランド・ゲール語講座にも通い、週一回二時間の講座で基礎を学んでいます。これまでも自力でゲール語に挑戦してみたことはありましたが、発音や綴りなどが難しく毎度挫折しておりました。こちらで初めてネイティブの先生に教わることができたため、今回こそゲール語の基礎を身につけようと考えております。
 長々と綴ってまいりましたが、こうしたエッセイを通して私のアバディーンでの研究や生活の空気感を少しでも伝えられたと思います。それでは、また次回お目にかかります。Beannachd leibh!  (山﨑遼)

Cullen Skink

(2014年のCullen Skink World Championshipsの優勝レシピを元に作ったCullen Skink)