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日本バラッド協会第13回(2022)会合

開催日:2022年3月26日(土) 
方 法:(1) HP掲載によるオンデマンド講演 (2) zoomによるオンライン発表 併用の形で開催

研究発表1 奥山裕介「ヨーロッパ文学の中のデンマーク・バラッド」
研究発表2 安保寛尚 「植民地時代キューバの物語詩 −『キューバ人』の人種的・文化的主体の表象の変遷について−」
パフォーマンス動画配信 Salmiakki(サルミアッキ)

<オンデマンド講演概要>
「伝承バラッド “Pretty Polly” の旋律が沖縄音階に」 三井 徹 
 ジョンとアランのローマクス父子が1930年代に、重い録音機械を車に積み込み、全米各地を回って多様な民謡を録音収集しました。その成果として、1941年に刊行された民謡集、Our Singing Country: Folk Songs and Ballads は、ローマクス父子が編纂した民謡集の中でも結局、最も価値あるものとなっています。
 白人と黒人の民謡から成るその200曲強の中に、伝承バラッドも少なからず含まれており、そのなかでも1961年に私が強く魅かれたのが 英国のブロードサイド・バラッドに基づく “Pretty Polly”(プリティ・ポリ)でした。その当時は意識していなかったのですが、好んで歌っていたそのバラッドの旋律の主要部分が、なんと沖縄音階を構成していることに思い当たりました。その歌からもう三十年少々遠ざかっていた二十年程前のことです。そのことをお話し致します。
(詳細はmitsuitooru.pdf参照)

<オンライン研究発表1概要>
「ヨーロッパ文学の中のデンマーク・バラッド」 奥山裕介
 デンマークのバラッドの起源は中世に遡り、16世紀末にはルネサンス期の人文主義と印刷技術の普及にともない歌謡の収集と出版が始まった。18世紀後半から19世紀にかけては、ギリシャ・ラテン古典文学とは対照的な北方ゲルマン文学の質実性に注目する潮流に乗って、デンマーク・バラッドの紹介とアダプテーション的創作が盛んになる。他方、デンマーク国内ではドイツ語文化圏に対する独立性を主張する文脈から、バラッドがスカンディナヴィア民族固有の文学的遺産として称揚され、ロマン派文学の題材として多くの詩人に歓迎された。本発表は、初期近代にはじまるバラッド蒐集の成果が英語・ドイツ語・デンマーク語圏の近代文学に及ぼした影響を確認しつつ、ヨーロッパ世界文学における北欧の地域イメージの形成にバラッドがいかなる寄与を果たしたかを考察する。

<オンライン研究発表2概要>
「植民地時代キューバの物語詩 −『キューバ人』の人種的・文化的主体の表象の変遷について−」 安保寛尚 
 キューバにおいて物語詩はあまり好まれたジャンルではない。しかしながら、ナショナリズムが高揚した19世紀には、国民的民衆詩を生み出すために物語詩を利用した二つの詩の運動が起こった。最初の運動は「キューバのロマンセ」と呼ばれ、白人農民の日常や娯楽が題材となった。次に起こったのがシボネイ主義で、これは先住民のシボネイ族の伝説が主なモチーフとなっている。
 二つの詩の運動は、文学史的にはクリオーリョ主義に位置づけられる。クリオーリョ主義とは、植民地生まれ(クリオーリョ)の知識人たちが、スペイン本国とは異なる自然や人々、その文化を描き出すことで、地域的アイデンティティの形成を促した文学運動である。つまり、白人農民やシボネイ族は、本国人から差異化された「キューバ人」を代表する人種的・文化的表象にされたのだ。本発表はこれらの表象の生成と変遷に注目し、それぞれどのような戦略から生み出されたのかを明らかにする。