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連載エッセイ “We shall overcome” (26)
パスティ(Pasty)と餃子 島崎寛子 2021-07-11
先日イギリスの料理コンテスト番組ブリティッシュベイクオフを見ていたら、グレートブリテン島南西部の半島コーンウォール地方に伝わる郷土料理のパスティというペイストリーが紹介された。コーンウォールは自然豊かな海辺の村で、「2021 G7 コーンウォール・サミット」が 今年6月に開催された場所だ。海と丘との風光明媚な保養地はジョンソン首相の家族の故郷だという。
このパスティ(別称コーニッシュ・パイ)は、半円形で大きな餃子のような形をしている。丸い平面のペイストリー生地の上に具をのせ、折り曲げて縁に折り目をつけて閉じてオープンで焼いてある。伝統的なコーニッシュ・パイは牛肉、薄切りジャガイモ、ルタバガというカブの一種、および玉ねぎが具として使われるそうだ。
パスティは、コーンウォールのスズ鉱員が食事に戻ることができないことから、坑内に持ち込むためのランチとして最初に作られたと言われている。コーンウォール版おにぎりということだろう。パスティはやがて、メキシコで食べられるようになった。今からおよそ200年前コーンウォールのスズ鉱山が閉山されていくにつれ、坑夫たちが一獲千金を夢見て、メキシコの鉱山へ移って行った。彼らは移住と共にパスティという食文化も持って行った。やがてメキシコ人の間でもパスティは食されるようになった。メキシコのパスティはティンガ(細切り牛肉/鶏肉の料理)やモーレ(メキシコのソースおよびソース料理)といった典型的なメキシコの具を詰めて変化していった。
この大きな餃子のようなパスティを料理番組で見たとき、アメリカのミシガン州に住んでいた頃に経験した残念な出来事を思い出した。ミシガン州の小さな町に住む日本人にとって、日本食の料理店はなかったので、中華料理店へ行くのが週末の楽しみだった。そこで出された餃子は、最初はとても大きくてナイフで切って食べるほどだった。1つの餃子が日本の餃子の5つ分くらいの量があり、大きな皿に5つほど出される。焼き具合も味も申し分なかったが、日本で食べるような小さいサイズの餃子が食べたくなった日本人が、「日本の餃子はこんなに大きくない。もっと小さい餃子を作ってくれないか。」とエチオピア人の料理長に丁重に頼んだ。すると次からは、小さい皿に小さい日本サイズの餃子が5つ出された。私たちは喜んだ。しかし、勘定書を見て驚いた。量が少なくなったのに同じ値段だったのだ。後悔しても、もう餃子は元の大きさに戻らなかった。
パスティには長い歴史があり、シェークスピアの作品にも登場する。今ではイギリスの各地でも食べることができる。コロナが終息したら、ぜひ本場のパスティを食べに行こうと思う。
Robert Morton Nance (1873–1959)というコーンウォール語の第一人者が書いたBalladは、コーンウォールとパスティを見事に表していると思う。
“The Merry Ballad of the Cornish Pasty”
When I view my Country o’er:
Of goodly things the plenteous store:
The Sea and Fish that swim therein
And underground the Copper and Tin:
Let all the World say what it can
Still I hold by the Cornishman,
And that one most especially
That first found out the Cornish Pastie.
<出処> https://en.wikipedia.org/wiki/Pasty