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Feis in Ullapool – 3
アラプールでのワークショップ体験 – その3) 木田直子連載エッセイ(4)
「わかんない!ぜんぜん楽しくない。帰りたい。もう、いやだ!」
と文句は言ってみたものの、泣き寝入りも悔しいので、しぶしぶ午後のクラスに出ることにした。午前中と同じくジャニス先生のクラスだが、「スコティッシュソング」ではなく、「コーラス」というクラス。参加者は20人以上いた。スコティッシュソングのクラスのときと同じく、輪になって全員自己紹介した後、リズム遊びをした。大勢でやるとますます楽しく、その時だけは憂鬱も吹き飛んだ。
補佐として背の高いキャサリンがついた。ジャニスとキャサリンがハモると、呼吸がピッタリな上に声が馴染んでそれは美しい!と思ったら、二人は姉妹だった。自己紹介のとき、ジャニスは、
「私にとって音楽や歌は、赤ちゃんの頃からいつも身近にあるものです。夕食が終わると決まって家族全員で楽器を弾いたり歌ったりしていたので、他の家に遊びに行ったときに、夕食の後、何故、歌を歌わないのかと不思議に思ったものです」
と話した。勿論、その歌はスコティッシュという前提。彼女たちはスコティッシュソングを代々伝承してきた家系なのだろう。そんなジャニスとキャサリンの頭には、スコティッシュソングがいっぱい詰まっているし、それに付けられるべきハーモニーも自然と沸いてくるようだ。このクラスでも楽譜は配られなかった。ジャニスもキャサリンも楽譜は持っていない。ふたりは向かい合って「M・・・」と、ハミングでハーモニーを確認しあうだけ。楽器、音叉、楽譜などの絶対音には縛られず、その場の生徒たちの音域に合わせて、相対的にハーモニーを作り上げていく。
1曲目の歌詞のプリントが配られた。午前中に練習した“IN FREENSHIP’S NAME”だった。ラッキー!偶然、私は昼休みにこの曲を自主練し、リフレインの部分の歌詞は暗記していた。一曲目は歌詞に苦しめられることはなさそうだ。
スコティッシュソングには、1番と2番、2番と3番、・・・の歌詞の間に「リフレイン(くりかえし)」の歌詞があるものが多い。
1番の歌詞を誰かがひとりで歌う
↓
リフレインをみんなで歌う
↓
2番の歌詞をまた別の誰かが、ひとりで歌う
↓
リフレインをみんなで歌う
↓
(以下同様に歌詞とリフレインを交互に歌ってゆく)
↓
最後にリフレインをみんなで歌う
大抵、上記のような様式で歌われる。リフレインには、ハーモニーがつけられることが多い。“IN FREENSHIP’S NAME”も、リフレインにハーモニーをつけコーラスで歌うよう、ジャニスは指導した。
参加者は、楽器も楽譜もない練習に慣れていた。メロディーを教えられればメモすらせず、諳で暗記した。耳と頭を働かせればよい。素朴だが、楽譜があることに慣れているものにとっては少々難しい。音程がとれないパートには、先生が助けに入る。音程は歌っていくうちに修繕されていった。全員が、ただただ、先生の真似をして歌っていったら、見事な混声五部のハーモニーが生まれた。
“IN FREENSHIP’S NAME(友情の名のもとに)” (Lyric Gems, Series 2, 1856より) の歌詞は、5番まであるのだが、ざっと説明する。
1番:自由な友が囲炉裏の炎のまわり。凍てつく北風が吹いても、友情で君も僕も温かくなる
2番:欲張りでけちん坊な金持ちは、私たちのように喜びや悲しみを分かち合うことは出来ない
3番:着飾って王座についた貴族たちは、ノミやシラミを紡いで縁取った服を着ているのだ
4番:というわけで、みんなで泡でいっぱいの杯(stoop)から飲もう。友情の名のもとに、歌を歌い上げよう
5番:友情は私たちを幸せにし、私たちに光を与え、私たちを清め、私たちを今宵ここに導いた
といった、皮肉を交えた、いかにもスコティッシュらしい歌詞。そして、下記のリフレインがはさまれる。
Happy we’ve been a’ thegither, canty we’ve been yin and a’
私たちがずっと一緒にいられる幸せ
私たちがずっとみんなといられる喜び
Time shall see us a’ mair blyther, ere we rise tae gang awa’
去り行く前の私たちは、より幸せに見えるだろう
この歌詞を、伸びやかなメロディーにのせて、混声五部のハーモニーをつけ大勢で歌う。楽しくないわけがない。コーラスのクラスで、私は初めて笑顔になれた。