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日本バラッド協会第9回(2017)会合

開催日: 2017年3月18日(土) 
場 所: 東京工芸大学 中野キャンパス 1号館1階1102教室

講演  鵜野 祐介
   「『さよなら三角またきて四角』−しりとり唄にみる子どものコスモロジー−」  
研究発表1  西谷 茉莉子
「A Broadside編集者としてのW. B. Yeats」
研究発表2  鈴木 万里
「伝承バラッドと近代以前の家族像」
ライブ  石嶺 麻紀
   第1部 「歌ってみよう、バラッド」
   第2部 「バラッドライブ」

《講演要旨》 (詳細は同名の研究ノート参照)
「『さよなら三角またきて四角』−しりとり唄にみる子どものコスモロジー−」     鵜野 祐介

 「さよなら三角 また来て四角/四角は豆腐 豆腐は白い/白いはうさぎ うさぎははねる/はねるはカエル カエルはあおい/あおいはやなぎ やなぎはゆれる/ゆれるはゆうれい ゆうれいはきえる/きえるはでんき でんきはひかる/ひかるはオヤジのハゲあたま」。子どもの頃に誰ともなく口ずさんでいたこんなしりとり唄には、一体どんな意味が潜んでいるのだろうか。日本はもとより、アイヌ、韓国、中国、ロシア、英国など、世界各地のしりとり唄を唱えてみよう。その上で、ATU(ウター『国際昔話話型カタログ 分類と文献目録』2004)を手がかりにしながら、しりとり唄の構造論的特徴を探っていく。
 それにしても、どうして「ひかるはオヤジのハゲあたま」でとどめを差さなければならないのか。そしてまたなぜ「ゆれるはゆうれい」であって「ゆれるはこころ」ではないのだろう。でもそういえば「たんたんたぬきの***」は「かーぜもないのにぶーらぶら」とゆれていたっけ。「オヤジのハゲあたま」とどこか似ている。<つなぐ><ならべる><いなす・そらす><こわす><くりかえす>、遊びの世界に端的に見られる子どものコスモロジーの現象学的特徴が豊かに息づく、しりとり唄の不思議な世界を探索してみたい。

《研究発表1要旨》
A Broadside編集者としてのW. B. Yeats     西谷 茉莉子
 A Broadsideシリーズは、1908年から1915年、そして1935年と1937年に、W. B. Yeatsの妹Elizabethが経営する出版社Cuala Pressから、月ごとに部数限定で発行されたブロードシート形式の出版物である。Yeatsが編集者としてより深く関わったのは、1935年と1937年のNew Seriesである。これらは、後にそれぞれBroadsidesとしてまとめられ、書物の形態で出版された。収録作品には、伝統的なレパートリーに加えて、彼と同時代の詩人たちのバラッドが含まれる。(寄稿者は、Hilaire Belloc, Dorothy Wellesley, Edith Sitwell, Walter De la mare, Oliver Gogarty, James Stephens, F. R. Higgins, Padraic Colum, W. J. Turnerなど)各号には楽譜と絵が付されており、芸術家たちのコラボレーションが紙面上に実現されていると言えよう。
 本発表では、まず、A Broadsideの編集、出版にまつわる基本的な情報を整理し、その上で、Yeatsの編集方針を浮き彫りにしたい。Yeats批評において、これらの出版物について論じられる機会は稀である。扱われたとしても、関心が寄せられるのはもっぱら、そこに収められたYeats作品である。しかし、彼の寄稿者や芸術家たちとの関係などにも目を配ることで、A BroadsideにおけるYeatsの編集者としての役割に照射したい。

《研究発表2要旨》
伝承バラッドと近代以前の家族像     鈴木 万里
 伝承バラッドには近代以前の家族観が反映されており、愛情を基本とする「近代家族」とはまったく異質の人間関係が展開されている点が興味深い。もっとも頻繁に登場するのは「きょうだい」(68例)であり、次いで「母親」(37例)である。封建的な時代の成立にもかかわらず、家長である「父親」(23例)より「母親」の存在感がはるかに大きいことは意外に思われる。また、「きょうだい」のなかでは「兄弟」(24例)、「姉妹」(13例)より「兄妹または姉弟」(31例)が多く描かれる。さらに特徴的な点は、「母親と子」および「男女きょうだい」が「支配―被支配」という抑圧的な関係として示され、悲劇的な結末をもつことである。特に、母親が息子を殺す、兄が妹を殺すという極端な事例がしばしばみられる。これはどのような家族内の力関係を示しているのだろうか。本発表では、バラッドをとおして近代以前の家族の実像を探り、その背景となる社会の価値観についても考察してみたい。

ライブ プログラム     石嶺 麻紀
第1部「歌ってみよう、バラッド」(20分弱)
“Ennery My Son”
(Jean Ritchieが歌ったヴァージョンにPete Seegerの歌詞を加えたもの。 “Lord Randal”の子ども歌ヴァージョン。)
第2部「バラッドライブ」(30分)
(予定曲目)
“Death and The Lady”
“Murder of Maria Marten”
“The Banks of Sweet Primroses”
“The Cruel Mother”