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Jack B. Yeats とヴァナキュラー文化:大衆娯楽文化の表象に関する研究

科研費採択研究課題の概要
(2019-2022年度学術研究助成基金助成金 基盤研究(C)(一般)課題番号19K00457 研究代表者:三木菜緒美)

<研究内容と目的>
Jack B. Yeats とヴァナキュラー文化:大衆娯楽文化の表象に関する研究

 本研究は、アイルランドの画家であり作家でもあるJack B. Yeats (1871-1957) の様々なジャンルに渡る作品群を対象とし、その中でヴァナキュラー文化がどのように表象されているか、学際的に考察してどのような意義を見出せるかを分析し、検証するものである。
 本研究において、「ヴァナキュラー文化」とは、イングランドの労働者階級及びアイルランドの人々の生活に関連した文化で、19世紀から20世紀前半にかけて、これらの地域に起こり、展開・変容・拡散あるいは衰退していった文化を指す。具体的には、フェアと呼ばれる市場やミュージックホールあるいは演劇場で行われていた大衆芸能や娯楽、すなわち曲芸やクラウンショー・動物ショーなどを行っていた「サーカス」、ベアナックル・ボクシングや競馬などの「スポーツ」、そしてバラッド・オペラやハーレクイン、クリスマス・パントマイム(別名ハーレクイネイド)などの「風刺演劇」、紙人形劇やマリオネット劇のような「人形劇」を指す。
 19世紀から20世紀前半にかけてのイングランドおよびアイルランドにおいて、ヴァナキュラー文化であるこれら大衆娯楽文化は、爆発的な流行と拡散あるいは衰退を、目まぐるしい速さで展開していったが、Jack Yeatsは風刺漫画や紙人形劇、演劇、ブロードサイド・バラッド、イラスト、絵画、小説などジャンルの違う作品の中で、これら大衆の娯楽文化を繰り返しテーマとして扱っている。Jack Yeatsはアイルランドを代表する画家として有名であるが、初期においては雑誌 『パンチ』に寄稿するなど風刺漫画やパロディ作品や人形劇用の劇作品を手がけ、また11年という長きにわたり、伝承歌やシー・シャンティと呼ばれる労働歌、詩作品をイラスト付きで発行したブロードサイド・バラッドの企画・編集・制作活動に携わっていた。しかし、これらJack Yeatsの雑多な文芸作品は、これまでほとんど注目を集めることがなかった。
 そのため、本研究は、まず①19世紀から20世紀前半のイングランド及びアイルランドにおける大衆娯楽文化、特にJack Yeats作品が取り扱っているバラッド文化やサーカス、スポーツ、風刺演劇などの娯楽文化に関して、関連書籍や雑誌記事、イラストなどの資料から、この時代における民衆の娯楽文化の歴史や社会事情を整理すること、②Jack Yeatsの作品を①の社会的・文化的コンテクストと照らし合わせ、作品がこれらの大衆娯楽文化をどのように表象・再構築しているかを領域横断的に分析・検証することで、今までに取り上げられることの少なかったJack Yeats作品を総合的に再評価することを目的とする。