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連載エッセイ “We shall overcome” (23)

日本バラッド協会 第1回会合への記憶の旅  三木菜緒美   2021-05-26
 
 4度目の緊急事態宣言下。ほぼ全ての時間を遠隔授業準備等に奪われてしまった昨年度1年を経験し、なんとか要領を得て、今はようやく余裕ができている。整理する暇もなかった研究室の棚を少しばかり片付けながら、エッセイは何を書こうかと考えていたところ、ファイルの中から日本バラッド協会の第1回会合のプログラムというかハンドアウトを見つけた。開催日は2008年3月30日(日)、場所は福岡市天神にある都久志会館。会合が13:00〜17:00、懇親会が17:00〜19:00。この第1回会合の司会・進行をしたのは私であった。よく覚えている。当時は、学会等で研究発表の経験はあったものの、まだ学生以外で初対面の方々を前に話などしたことがほとんどなく、ましてや司会・進行なんてと不安に思いながらも、やるだけやってみなくてはと当日を迎えた。
 こじんまりした部屋に、長テーブルを丸く並べ、会員29名のうち参加者16名がぐるっと向かい合って座った。まず、山中光義前会長が「日本バラッド協会発足の挨拶とHPの説明・今後の展開について」話をされた。この協会を文学や音楽の垣根を越えてバラッド愛好家たちが集う場とし、HP上で協会運営していくので特に会費は設定せず、1年に1度顔を合わせる会合の後の懇親会参加費だけ集め、アットホームなものにしたいという趣旨であった。もちろん、チャイルド・バラッドの翻訳全3巻を出版し、さらに「英国バラッド詩アーカイブ」HPの英語作品蒐集もほぼ完了し、機は熟した、という発足の経緯も。
 その後、参加者それぞれの自己紹介へと移るが、ここで大失敗。こともあろうか、司会である自分が長々と喋ってしまい、予定の時間をかなりオーバーしてしまった。私としては、自己紹介の時間が1時間もあるので、16名だと時間が余ってしまうのではないかと心配していたのだが・・・取り越し苦労。この後のティー・ブレイクで吉賀憲夫氏に「ここに集まる人たちはみんなおしゃべり好きなんですよ」とご指摘を受け、「ああ、そうか。良い教訓になった。」と思ったのを覚えている。
 ティー・ブレイクの後は、‘F. J. Child at Harvard’ と題した福吉瑛子氏の協会初のご講演。「2025年がチャイルドの生誕200周年、私はチャイルドの追っかけなんです」とお話になりながら、集めて来られた貴重な資料をもとに、チャイルドの生まれから、人生における10大事件、資料蒐集先の説明、そして最後にはチャイルドが眠る墓地まで紹介し、余すところなくチャイルド愛を披露してくださった。
 そして、ティー・ブレイクの後には、中島久代現会長より「英国バラッド詩アーカイブ」HPの紹介があり、その後、「和太鼓の名手とうたう伝承バラッド」と題した音楽部門が続いた。福岡を拠点に活動する和太鼓集団「野武士」の元メンバーであり、ギターも弾く林茂氏(宮原牧子氏夫)と、福岡で活躍するバンドのボーカルを担当する池千鶴氏により ‘Barbara Allen’ などの歌が披露された(ついでに、林氏曰くThe Modsの「バラッドをお前に」も披露)。池千鶴氏は翌年の2009年、山中氏、中島氏とDavid Taylor氏で出版した『イギリス伝承バラッド』に付属しているCDの歌を担当された女性だ。会合を開催するにあたり、音楽関係は特にツテがあるわけではなく、今後どのように企画していくかは考えなければならなかったが、とにかく講演や研究発表だけでなく、歌や音楽、パフォーマンスも取り入れようという会合スタイルが決まった瞬間であった。
 こうして無事に会合が終わり、閉会の後に向かった懇親会の会場は、天神南のLa Vita e Bellaというカウンター9席のみの小さなレストランバー。ここのお客さんたちは誰も店の名前を覚えておらず、皆が店主「服部さんの店」として覚えていた。新型コロナ感染症が広がり始める半年ちょっと前の2019年4月末に店を閉めてしまったが、営業していた頃は、福岡在住の大学(特に文学関係)の先生方、東京からいらっしゃる出版社の方々、ライブ等の音響を担当される方々がよく集まっては、夜遅くまで酒を飲み笑い語らう場であった。懇親会では、このような小さい店に16人を無理やり詰め込むものだから、ほとんどの人が立ったまま、あるいは適当な棚のようなものに腰掛けるなどして、完全に3密状態。生演奏はないが、わいわいガヤガヤとダブリンなどで経験したアイリッシュパブそのものであった。お店ではW. B. イェイツがある老婆から聞いたというアイルランドの伝統的な歌 ‘Down by the Salley Gardens’ がよく流れていた。

 私事ではあるが、実はこの2年後にこの店主と結婚(出会いはずっと前)、1男1女をもうけ、その後のバラッド協会の懇親会には子供たちと夫と共に何度も参加させていただいている。息子はもう10歳に、娘は7歳になった。2021年は、コロナ禍でなければ、かんのみすず氏を中心に北海道で音楽祭をという計画もあった。一刻も早くコロナが終息することを願いつつ、ぜひともいつか音楽祭を実現し、家族でまた懇親会に参加して、アットホームな雰囲気作りに貢献したいと思う。